ストレスチェックが進まない3つの理由
従業員50人以上の事務所に2015年12月から従業員の精神状態を確認するために
「ストレスチェック」
というものが義務化されました。
これは従業員の“心の健康診断”と言われているものです。
大きな企業に企業に勤められている方は既にストレスチェックを受けた経験がある方もいるかもしれません。
昨今メンタル不調に陥る方々の増加に伴い、少しでもその兆候を早く捉え対処をすることでこのメンタル不調に陥る人の増加を防ごうという意図で始まりました。
しかし義務化されたとはいえ一体どれくらいの割合で進んでいるのでしょうか?
今月詳しい実情が出てきました。
九州は全然進んでいない
九州の対象事業所約1万2千件のう ち、国に実施報告を行ったのは
4・8%(12日現在)
にとどまることが各労働局への取材で分かった。
なんと!
義務化されたにもかかわらる9月現在で5%未満・・・
初回のストレスチェックは11月末までに行うことが定められており、
各労働局は慌てて改めて実施や報告を呼び掛けています。
ストレスチェックの義務化とはどういうものか?
ストレスチェックとは従業員の精神的不調を未然に防ぐため、
事業所に全従業員を対象に年1回以上のス トレスチェック実施が義務付けているものです。
文書による調査で、医師らが「高ストレス」と判断した従業員は、本人が希望すれば面接指導を受けられる。
というものです。
また事業所 は、これらの実施結果を労働基準監督署に報告する必要があります。
ではどれくらい進んでいるの?
九州全体で4.8%
九州の報告状況を県別に見ると、提出率が最も高い宮崎県でも7・2%で、最低は長崎県の1・8%だった。
まあ予想通りですが一向に進んでいないですね
これは有識者の方がも今年は大きく進むのは難しいという意見があったくらいです。
しかしこの数字は低すぎるのではないでしょうか?
大企業とその関連企業や子会社のみというところなのではないでしょうか?
しかし何度も言いますが
ストレスチェック制度が義務化され、従業員50人以上の企業はストレスチェックを実施しなければなりません。
目的として労働者のメンタルヘルスの改善と、職場環境の改善を目的として実施されるもので、昨今の企業においては労働者のメンタル管理は非常に重要な課題です。
ではどうして進まないのでしょうか?
ここではストレスチェックが進まない3つの理由をお伝えします
ストレスチェックが進まない3つの理由
理由①ストレスチェックを怠った企業への罰則がない
ストレスチェック制度を”義務化”ということは、国が企業に対して
「必ず実施してください」
と命令しているようなものです。
まあ義務ですからしなければなりません
しかし、実はストレスチェックを怠ったからといって
直接罰則が課されることは現状ありません。
そう罰則がないのです。
罰則がないのに義務と言っているのですから
まあ多くの企業の中で優先順位は低くなります。
そもそもストレスチェックは労働安全衛生法の改正で作られているのですが
労働安全衛生法にもその罰則についての記載はありません。
ですので
「罰則がないのなら、とりあえず様子見で良いんじゃない?」
という考えが多くの企業の担当者にあるというわけです。
「社長!ストレスチェックという制度が義務化されました!」
「うん?そうなん?とりあえずいつまですれば良いの?罰則はあるの?」
「はい!年1回は必ずしないといけないみたいですが、罰則はないらしいのです」
「ああ〜そうなん?じゃあとりあえず考えとくよ」
と言って社長の頭の中からス〜と消えていきます。
担当者も1度言ったのでまあ様子見かな?となります。
では2つ目の理由
理由②全体のコストが読めない
当然のことですが、ストレスチェックという新たな取り組みをすれば
コストがかかります
ではどれくらいのコストがかかるのでしょうか?
導入コストも人数によるのでしょうが・・・
ストレスチェック自体はそれほど高額なわけではありません
1人あたり 500〜800円くらいではないでしょうか?
しかしそれ以外にも費用はかかります。
おそらく高額が予想されるのは?
産業医などのによる面接指導です。
高ストレス者は希望があれば医師との面談を受けることができる
とストレスチェック制度はなっています。
この医師との面談費用は企業が負担することになりますから
費用的にはおそらく1人あたり10万円前後はかかると考えられます。(ケースにもよります)
これが担当者には読めないのです。
人数によって金額が変わりますから正確なストレスチェックにかかる費用が誰にも読めないのです。
(高ストレスチェック者の人数によって総金額が変わってしまうからです)
自分の会社内にどれくらいの高ストレス者がいるかなんて誰も予想できません。
もしかしたら0人かもしれないし、50人かもしれない
そんな状況なのです。
もし仮にこの面接指導の人数が多くなって費用が予想よりも高額になったとしたら
担当者の立場や評価に関わりますよね?
そう考えるとどうしてもコストが読みにくくなり、
ストレスチェック自体を推進する気力が萎えてしまうのです。
理由③社員にストレスチェックを受けたくないと言うかも?
このストレスチェック制度は従業員の任意で行われます。
ですから社員が
「受けたくありません」
となると企業サイドから強引に受けさせることもできないものです。
担当者にとってみればこれも厄介に感じます。
「○○君ストレスチェックはどんな感じなの?」
「はい!このような感じです。」
「うん?この部署20人ぐらいいたよね・・・受けた人数が10人となってるけどどうして?」
「はあ・・・ストレスチェックは希望者だけなので・・・」
「えっ!う〜ん全員受けてないの?これだと部署の状況がわからないんだけど・・・」
「○○君きちんとみんなに説明したの?」
このようになったらどうしようと担当者が少しでも思ったなら
またストレスチェックを推進する気力が失われていきます。
これらのようにストレスチェック制度が進まない理由は
様々ありますが、担当者が積極的に進めるには動機が薄いのです。
ですから進まないのですね
「罰則があるわけではないし・・・」
「最終的に予算はいくら必要かもわからないし・・・」
「説明面倒なあ・・・」
こんな考えが担当者に浮かんできます。
最終的に
「また社長が言い出したらその時考えよう」
となって進まない状態がなっているのです。
しかしこのような考えになるのは、それは安直と言わざるを得ません。
仮に、ストレスチェックを行っていない職場で労働者が精神障害となった場合、「安全配慮義務違反」が成立する可能性があります。
安全配慮義務とは何か
「安全配慮義務」に違反した場合、企業は多額の賠償金を支払うリスクもあります。
ちなみに、「安全配慮義務」に関しては平成19年に制定された「労働契約法」に記載されています。
労働者の安全への配慮(安全配慮義務)(第5条)
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
※労働契約法第5条より
安全配慮義務が適用され、多額の賠償金を支払うことになった裁判の判例を簡単に一つご紹介します。
【電通事件】
(概要)
過労による労働者の自殺に関する裁判(詳細)
上司であるCが部下のAの健康状態悪化を見過ごし、なおかつ徹夜や過重労働を課し、Aが衝動的・突発的に自殺に至った。(判決結果)
上司がAの健康状態を把握していながらも、その負担を軽減する措置を取らず安全配慮義務に違反したため、会社に損害賠償責任を認めた。
上記のように、メンタル管理をしていなかった企業は、多額の損害賠償のリスクがあります。
ストレスチェックを行い、場合に応じて面談指導ならびに、業務負荷の軽減などの措置を講じていれば、こういったケースは避けられたかもしれません。
また、企業としても日本人労働人口が減少している中、貴重な人材を確保できなくなるのは痛手です。
しかし、ストレスチェックを実施し、メンタルヘルス不調の予防ならびに対処をすることで離職率の低下やモチベーション増加に伴い企業発展が望めるのではないかと考えます。
つまり、ストレスチェック制度は企業が存続していく上で重要な要素であると言えるのです。
まとめ
ストレスチェックが義務化され、従業員のメンタル管理に焦点が当てられるようになりましたが、罰則がないため対象企業の100%が実施するかというとそうではないと思われます。
しかし、罰則がないとはいえ、企業において労働者のメンタルヘルス不調を重要視しないところはいずれ何らかの形でツケが回ってくると考えます。
それは、精神疾患に伴う賠償責任だけでなく、企業イメージの悪化、人材不足による戦力ダウンなどもありえます。
従業員50人未満の企業はストレスチェック制度は努力義務ですが、そういったことを認知し、現在ストレスチェックを別会社に委託して実施している企業もあります。
義務化であろうとなかろうと企業には従業員のメンタル管理を重点項目といて認識して欲しいと思います。
それは会社のためでもあり、また労働者それぞれの人生が豊かになるためでもあるからです。
しかし多くの方が「面倒だな〜」と思っているというのもまた事実かもしれません。